「昨日ここに引っ越してきたんだよ」父からの電話
2026-06-1813時33分。44秒。
14時01分。1分。
これが今日の父との会話時間である。
13時33分
父
「mamoruか。ジジだけど」
私
「うん、どうしたの?」
父
「他に行くところないのか?」
私
「そこが家でしょ?」
父
「ここが家?」
私
「そうだよ。そこにいればいいんだよ」
父
「ここにいればいいのか。分かった。じゃあね」
14時01分
父
「ジジだけど」
私
「なに?」
父
「昨日ここに引っ越してきたんだよ」
私
「もう5年になるよ」
父
「あーそう。なんでここにいるの?」
私
「お金がなくて都営住宅に申し込んで、当選したからでしょ」
父
「あーそうなのか。お金もないんだよ。二千円しかないんだよ。明日からどうすればいい?」
私
「そんなことないでしょ?」
父
「明日から生活できないんだよ。オレは全然お金のことが分からないんだよ」
私
「それはジジのお小遣いじゃないの?明日は年金の日だよ」
父
「あ、オレの小遣いか。明日は年金か。分かった。じゃあね」
と、こんな感じである。
母が家にいる時は、受話器の向こうから
「また電話してみな」
という母の声が聞こえてくることがある。
母が買い物に出ていたか、お風呂掃除をしている隙に掛けてきたのだろう。
今日の電話では出なかったが、父はいまだに伊勢崎の話をする。
父の中では、伊勢崎にいた兄弟たちは、今も元気に生活していることになっている。
私が
「もう亡くなっているよ」
と言うと、
「え?そうなのか?」
と驚き、
「じゃあ寿司屋はどうした?」
と必ず聞く。
父の心の中は分からない。
ただ、過去と現在が混ざり合い、
「今いる場所は、自分がいるべき場所ではない」
と感じているのではないかと思うことがある。
以前少し書いたが、都営住宅が当選する前、父は伊勢崎へ戻りたいと言っていた。
しかし母は、そんな父について行くことはできなかった。
結局、応募を続けていた都営住宅が当選し、今の住まいへ引っ越すことになった。
生活していく上で、都営住宅に当選したことは本当にありがたいことだったと思う。
それでも父にとっては、そうではなかったのかもしれない。
父の中では今でも、
伊勢崎の家で暮らし、
兄弟たちと会い、
当たり前の日常を送っている。
そんな時間が、どこかで止まったままなのかもしれない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
MACLIFELab
