Evernoteの整理をしていたら、一枚の古い納品書が出てきました。
そこに記されていた製品名は「QuarkXPress 3.3」。今のMacユーザー、あるいはiPhoneからAppleを知った人たちには、もう馴染みのない名前かもしれません。
かつてMacの世界には、このソフトを頂点とした「DTP(DeskTop Publishing)」という熱狂的な時代がありました。
今のAdobe InDesignが主流になるずっと前、Macでデザインをすると言えば、誰もがこの「Quark」の独特な操作感に心酔していたのです。
私がMacに触れ始めた頃、デザインの現場はまさにこのソフト一色でした。当時の空気感を思い出すと、今でも胸が熱くなります。OS 9までの不安定な環境で、ドングルを刺してはクラッシュに怯え、それでもMacでしか作れない世界があると信じていました。
ソフト1本が「20万円」した異常な時代
当時、個人でQuark3.3を購入しましたが、価格は確か20万円近くした記憶があります。さらに、バージョン4.0へのアップグレードだけで10万円弱。
今考えれば、何もかもが異常な価格設定でしたが、当時は「Macでデザインをするならこれしかない」という、ある種の狂気の中にいた気がします。
コピー対策として、キーボードとマウスの間に「ドングル」という物理的な鍵を挟まなければ起動すらできない。そんな不便さすら、プロの道具である証のように感じていました。
あの重厚な箱を開ける時の高揚感は、今のサブスクリプションでは決して味わえないものです。高いお金を払ってでも手に入れたい「何か」が、あの頃のソフトにはありました。
Quadra、ナナオ、ニコン。個人がMacにハマるということ
当時の私の相棒は、QuadraかPowerMacだったでしょうか。それにニコンのスキャナー、ナナオ(現EIZO)のモニター。とにかく個人としてMacにどっぷりハマっていた時期です。
周辺機器を揃えるだけでも、車が一台買えるような出費でしたが、それが自分を磨く投資だと信じて疑いませんでした。プロの現場において、Quarkの動きは驚くほどサクサクと軽快でした。
対照的に、IllustratorやPhotoshopはとにかく重かった。一つのフィルター作業が終わるまでに「コーヒーが一杯飲めるんじゃないか」というほど待たされるのが当たり前。
それでも、この三種の神器を使いこなせれば「将来、仕事に困ることはない」とさえ言われていた、憧れのスキルだったのです。
驕れるQuarkは久しからず
「デザインといえばMac」という独壇場だった世界に、AdobeからInDesignが登場します。そこからのQuarkの凋落は、驚くほどあっという間でした。
「DTPにはQuark以外ありえない」というメーカー側の驕りが、時代の波を読み違えさせたのかもしれません。余談ですが、今でこそWindowsのイメージが強いExcelも、実は1985年にMacintosh向けに先行リリースされたソフトなんです。
私も初めてのMac、PowerBook 170と一緒に購入したのを覚えています。あのモノクロ液晶でセルを動かした衝撃は、今も昨日のことのように思い出せます。
Evernoteから出てきた一枚の納品書。それは、私がMacに情熱を注ぎ込んできた日々の、大切な証拠品でした。MACLIFELabという場所で、またこうして古い記憶をアップデートできることに、不思議な縁を感じています。
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